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1292年の歴史をもつ室根神社で、閏年の翌年に行われる室根神社特別大祭。祭り3日目の本宮と新宮の両神輿による「御神輿お下り」と呼ばれる先陣争いが圧巻です。農作物の豊穣を祈る荒祭りとして知られ、室根を中心に隣接する地域から氏子約千人が参加します。国の重要無形民俗文化財に指定されています。


シシゾウ:室根神社特別大祭はいつごろ始まったのですか?
小山:室根神社特別大祭は、室根神社の創建と深く関わっています。奈良時代、陸奥(むつ)国(現在の東北地方)の軍事をつかさどる鎮守府将軍だった大野東人(おおのあずまんど)は、反乱を起こした蝦夷(えぞ)の征伐で苦戦をしたことから、神の加護を得ようと、霊験あらたかなことで知られた紀州牟婁郡本宮村(現在の田辺市本宮町)の熊野神を、東北の地に迎えることを元正(げんしょう)天皇に願い出て、許されました。そこで熊野神の御神霊は、和歌山の港から船で北を目指し、5ヶ月間もかかって宮城県唐桑(からくわ)町の港に到着しました。大野東人は地元の諸郷主を招集し、白馬17騎で御神霊の乗った神輿を出迎え、勅使から天皇の勅書を受けた後、御神霊は、安置場所としてご託宣が告げた室根山(むろねさん)の8合目に祀られ、室根神社が建立されました。それが養老2年(718)9月19日です。その約10年後の天平元年(729)に祭りが始まり、現在まで続けられています。
シシゾウ:室根神社特別大祭はなぜ隔年に開催されるのですか?
小山:室根山に熊野大社の御神霊が祀られたのが閏年の翌年だった史実にのっとり、旧暦の閏年の翌年に行われます。ですので、4年に1回ないしは3年、または2年に1回の開催になります。古式が守られているのは開催日だけではありません。この祭りで要職を務める神役から神輿の担ぎ手、仮宮を建てる人に至るまで、祭りに関わる全ての役は、室根地区を中心に広域にまたがる氏子や地区の人々できちんと役割分担され、親から子へと代々引き継がれています。このように、祭りの古い形がきちんと伝えられていることから、昭和60年に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
シシゾウ:祭り期間の3日間でどのような行事が行なわれるのですか?

小山:1日目は神職と神役による神事、2日目は鎮守府将軍の大野東人が神輿を迎えたという故事にのっとった騎馬武者17騎の荒馬先陣(あらうませんじん)、豪華絢爛に大名行列を再現した袰先陣(ほろせんじん)、武者人形を飾った山車6基の袰祭(ほろまつ)りが町内を練り歩き、仮宮が建てられた祭り場に勢揃いします。3日目にはこの祭りのメインとなる祭り場(まつりば)行事が行われます。室根神社には本宮と新宮という2つのお宮が祀られているのですが、その2宮の神輿2基が約10km離れた祭り場にお渡りします。なお、祭りの協賛行事として、「室根大祭マラソン」や「太鼓フェスティバル」等も企画されています。
シシゾウ:“東北名代の荒祭り”と言われるそうですが、どのようなところからそのように呼ばれるのですか?

小山:御祭神が荒々しく振る舞うことを喜ばれるということで、3日目の神輿のお渡りで、神輿はかなり荒っぽく担がれます。普通はまっすぐ進むところをあっちへ行ったりこっちへ行ったりし、ときには2基で激しく揉み合ったりしながら祭り場を目指します。祭り場に着くと、今度は設けられた仮宮への先着争いを激しく繰り広げます。

シシゾウ:祭り場行事のある3日目はどのようなスケジュールになっているのですか?

小山:午前0時、室根山の8合目にある室根神社に関係者が集まり、神輿のお渡りに先立って神事が行われます。神輿に御神霊を移す御魂(みたま)移しの式は、堂内の明りを全て消した暗闇の中で厳粛に行われます。御神霊が移された神輿は、神職から神輿を担ぐ陸尺(ろくしゃく)たちに渡されます。そして午前4時、神輿の先祓いをする長刀(なぎなた)役が鳥居に張られた注連縄(しめなわ)を勢いよく切るのを合図に、2基の神輿は出発します。参道の山道は、石がゴロゴロしている急勾配の山道です。それを明かりもなしに10数キロ駆け下ります。途中、田植の壇の農王社で五穀豊穣を祈願する神事を行い、3合目付近にある蟻塚公園で荒馬先陣らの出迎えを受けます。さらに室根山のふもとでは、神社には行かなかった陸尺たちが待ち受けています。室根神社を出発するときの陸尺は、本宮、新宮を併せて50人ほどですが、次から次へと合流していくので、祭り場に着く頃には200名近くに膨れ上がります。
なお、この神輿の道中を見物される場合には、行列の前を横切ることのないようにお願いします。先祓いの長刀役が振り回す長刀は模造品ではなく真剣ですので、怪我をする恐れがあります。
シシゾウ:祭り場はどのような場所ですか?

小山:折壁地区にある祭り場は普段は空き地で、祭りの前に整地されます。中央には仮宮が設けられ、周囲には1周約50mの簀垣(すがき)をめぐらした馬場と、それを取り囲むように観客のための桟敷が作られます。 神輿がお渡りする仮宮は、松の丸太12本で組まれた櫓(やぐら)で、カヤと杉の葉で葺(ふ)いた屋根が付いています。本宮と新宮の仮宮は並んで建てられますが、高さは姉宮にあたる本宮が7m70cm、妹宮の新宮が7m10cmと、本宮の方が少しだけ高くなっています。神輿は、この高い櫓の上に、陸尺の手によって綱で引き上げられて安着という形になります。このとき、綱は神輿の台木2本にひっかけただけの状態なので、バランスを崩すと神輿は落っこちてしまいます。実際のところ、神輿が落下することは珍しくないのです。でも、不思議なことに怪我人が出たことはありません。
シシゾウ:神輿の先陣争いはどのように行われるのですか?
小山:2基の神輿は、一番乗りしようと揉み合いながら祭り場に到着します。さらにそこから、本宮と新宮の神輿のどちらが先に仮宮に安着するかを争うのですが、単なる早い者勝ちというようにはいきません。どちらかの神輿が仮宮に先に引き上げられそうになると、もう一方の神輿はへそを曲げて、仮宮から離れて引き返そうとします。そうなるとたとえ引き上げられていたとしても、機嫌を損ねた神輿を呼び戻しにいかなければなりません。そこで神輿は地面に下ろされ、先陣争いは仕切り直しになります。そういう駆け引きが数回繰り返されます。最終的に2基の神輿は仮宮の前方から同時にスタートして、先に引き上げられた方が先着ということになります。昔は本宮の神輿が先に着くと豊作になると言われていたようですが、今ではそのようなことは言われなくなりました。
シシゾウ:神輿が安着するとどうなるのですか?

小山:両宮の神輿・お袋権現の下で、別当・献幣使・神職・神役・氏子総代・末賓等が参列して、遷座式が行われます。祭式が終了すると、大先司がお仮宮を三度巡り、続いて荒馬先陣・袰先陣、その他各町内の山車等が行列をつくって、お仮宮を三度巡ります。また、お仮宮前では、舞姫8名による舞が奉納されます。それが終了すると、お仮宮からお袋権現・両社の神輿を降ろし、大先司を先頭に神幸行列を組み、町内を通って町はずれの鳥居まで見送ります。このようにして、この祭りのメイン行事である「マツリバ行事」は、午前10時頃に幕を閉じます。


小山:午前4時に室根神社から下りてくる神輿を途中までお迎えに行くときの荒馬先陣の様子は、お時間が許すのなら、ぜひご覧いただきたいと思います。1300年前、熊野大社の御神霊が乗った神輿を出迎えた人々の子孫17名が、羽織袴に刀を帯びた姿で騎乗し、深夜の街を隊列を組んで、蹄(ひずめ)の音も高らかに提灯を掲げて行進する光景は壮観で、他所ではなかなか見られるものではないと思います。コースは決まっていて、室根町矢越(やごし)地区から折壁地区に向かって国道284号線を東に進んでいくので、午前2時頃に沿道や南流神社付近にいらっしゃればご覧になれます。

シシゾウ:一関市室根町で小山さんのおすすめの観光スポットや特産物を教えてください。
小山:祭り場行事をご覧になって、まだお時間があれば室根神社の鎮座する室根山にも足をお伸ばしください。祭り場から車で約15分です。標高895mの室根山は、室根高原県立自然公園として整備されています。山頂には展望休憩所があり、晴れた日には岩手山、早池峰山、太平洋などが一望できます。また、展望休憩所屋上には、口径50㎝の反射式望遠鏡を備えた天体ドームがあります。そのほかにもオートキャンプ場、ハングライダーやパラグライダーの離陸場、室根高原牧場などアウトドアレジャーのスポットがいろいろあります。四季折々の自然の景観もすばらしいです。祭りの季節ではありませんが、春には約30万本というヤマツツジが咲き誇って見事です。
室根町のお土産品には、特産のリンゴと梅を使ったワイン「むろねーじゅ」、銘柄鶏「いわいどり」、室根から産出される室根石の加工品、明治時代から作られている銘菓「白あんぱん」や「つりがね最中」「きらら」「室根高原なんばん」などがおすすめです。

小山:この祭りは世襲の神役が活躍します。少子高齢化で人口が減り、昔通りに祭りを行うことが年々難しくなっていますが、地域の人々の大切な心のよりどころとして、祭りの継承に、地域で一生懸命取り組んでいます。最近は、祭りを盛り上げる手段のひとつとして、神輿の担ぎ手となる陸尺を一般募集しています。担ぎ手として参加を希望される方は、陸尺が着用することになっている半纏(はんてん)を購入していただきます。興味のある方は一関市役所室根支所までお問い合わせください。暴れ神輿ということで慣れないうちは担ぎ棒に触れられないかもしれませんが、それでも間近で祭りの雰囲気に触れていただくことで、祭りの醍醐味を体感していただけると思います。