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神輿のけんかと舞楽で神様をもてなし、豊漁豊作を祈る伝統の祭りです。祭りでは、押上地区と寺町地区の若衆が担ぐ二基の神輿が、天津神社の境内を周りながら勇壮にぶつかり合います。けんか神輿の後は、国の重要無形民俗文化財に指定されている舞楽が優雅に奉納され、境内の雰囲気は動から静の世界へと一変します。


シシゾウ:糸魚川けんか祭りはいつごろ始まったのですか?
野本:天津(あまつ)神社で豊作と大漁を祈願する春祭りとして行われる糸魚川けんか祭りは500年の伝統があると言われています。この祭りは、氏子地区の押上(おしあげ)地区と寺町地区の若者がそれぞれ担ぐ2基の神輿を勇壮にぶつけ合うことで知られています。なぜ神輿をぶつけ合うのか、その理由は文献が残っていないので定かではありませんが、天津神社の宮司様の言葉を借りれば、最初は普通に2基の神輿でお練りしていたのが、それだけでは物足りなくなってきて神輿をぶつけ合うようになったのではないかということです。祭りの正式名称は糸魚川けんか祭りですが、そのように呼ばれるようになったのは最近のことで、私が子どものときは天津神社の10日(とおか)の祭り、或いは一の宮(いちのみや)の祭りと呼んでいました。10日の祭りという呼び名は、けんか神輿が10日に行われることに由来しています。この祭りは新潟県の大きな祭りでは1年の最初に行われるもので、天津神社のけんか祭りが終わると本当の春がやってくると言われています。

シシゾウ:糸魚川けんか祭りのみどころはどこですか?

野本:みどころは、けんか祭りという名前の由来でもある、神社の一の神輿と二の神輿のけんかです。約300kgの神輿は担ぎ手と引き手によって動かされるのですが、信じられないような勢いで境内を駆け巡ったり、ぶつかり合ったりしてものすごい迫力です。
シシゾウ:神輿を担ぐのはどんな人たちですか?

野本:天津神社の氏子地区の押上地区と寺町地区の若者で、毎年一の神輿と二の神輿を交互に担ぎます。神輿をメインで担ぐのは白装束の「白丁(はくちょう)」で、両地区から若者が10人ずつ選ばれます。白丁以外にも神輿を引っ張る「手引き」や、神輿のぶつかり合いのときに神輿と神輿を上手に組み合わせる「組ませ」などいろんな役割があります。
シシゾウ:神輿はどうやってけんかするのですか?

野本:10日の神輿行事のおおまかな流れを説明しますと、まず当日の朝、一の神輿、二の神輿が神社の神輿堂から出され、境内に設けられた舞台に据えられます。それから神輿は登社してきた押上地区と寺町地区の若者に渡されます。それぞれの地区の若者に担がれた2基の神輿は、古式の衣装を着て肩に担がれた稚児と一緒に境内を練り歩きます。稚児が舞台に上がると、いよいよけんか神輿の始まりです。境内には、拝殿と舞台を挟んで対角線上になるように押上・寺町の桟敷がそれぞれ設けられています。2基の神輿は拝殿と舞台の周りを約1周全力疾走してから、桟敷の前で互いに向き合い、がっぷり組み合って全力で押し合います。それを数回繰り返すと神輿を離して再び走り出し、もう一方の桟敷前でまた同じようにぶつかり合います。ぶつかり合いは10回近くに及ぶので、神輿が壊れてきて、たまに担ぎ棒が折れることもありますが、応急処置をしながら両地区の代表が終了を宣言するまでぶつかり合いは続けられます。
シシゾウ:ぶつかり合いでけんかは終わりですか?

野本:神輿のぶつかり合いに続いて、けんか神輿のもうひとつの見せ場「御走り(おはしり)」が行われます。これは2基の神輿が競争して境内を約1周するものです。一の神輿と二の神輿はそれぞれ相手方の桟敷の前にスタンバイし、両地区の総代が舞台の上で榊(さかき)を振るのを合図に、拝殿裏にある幣殿を目指して全速力で駆け出します。スタート位置が違う関係で、一の神輿が境内を4分の3周するのに対して二の神輿は1周と4分の1を走るため、当然走る距離が短い一の神輿がゴールに先に着くことになります。そのため、一の御輿を幣殿に上げるところを二の御輿に見られると二の御輿の勝ち、見られなければ一の御輿の勝ちとされていますが、あえて勝敗はつけずに双方が自分たちの勝ちをアピールするのが恒例です。ちなみに私の親が神輿を担いでいた頃はスタートの合図がなく互いが頃合いをみて勝手に走り出していたということで、二の神輿が先にゴールすることもあったそうです。2基の神輿が幣殿に上がるとけんか神輿は終了です。


野本:午前中のけんか神輿が終わると、午後からは境内の石舞台で国の重要無形民俗文化財指定の舞楽が奉納されます。天津神社に古くから伝わるこの舞楽は、全12演目のうち稚児の舞が8曲と、稚児が大活躍するのが特色です。大阪の四天王寺の舞楽の流れを汲むものとされていますが、「能抜頭(のうばとう)」「華籠(けこ)」のように天津神社だけに伝わる珍しい演目もあります。奉納舞楽のクライマックスは演目の最後に大人の熟練の舞い手によって演じられる「陵王(りょうおう)の舞」です。これは中国の有名な武将・蘭陵王(らんりょうおう)が敵を勇壮に打ち破る様を表したものでとても迫力があります。約4時間半かけて演じられるこれらの舞楽は文化史的にもとても貴重なもので、必見です。昨年はルーツとなる四天王寺の雅楽関係者の方々が見に来られたのですが、すばらしい舞いだとお褒めくださいました。舞楽奉納は11日にも行われます。演目は前日と全く同じですが、10日の奉納では文化財級の年代物の装束、11日は新しい装束を着けて演じられます。衣装だけでなく着ける面も違いますので両日ご覧になるときは衣装と面に注目して見るのも楽しいと思います。なお、舞楽の衣装は雨に濡らすと痛んでしまうのでほんの少しの雨でも舞楽奉納は中止になります。祭りの時期、糸魚川は雨が多いのですが、この日のために一生懸命練習を積んできた稚児たちのことを思うと毎年お天気になることを願わずにはいられません。

シシゾウ:糸魚川市で野本さんのおすすめの特産物や観光スポットを教えてください。
野本:糸魚川市と言えば世界的に貴重な地質遺産の宝庫で、昨年の8月22日には国内第1号になる世界ジオパークに認定されました。ジオパークを一言で説明すると大地の公園ということになります。糸魚川ジオパークには東北日本と西南日本の境目とされるフォッサマグナや国内屈指のヒスイ産地など、特色のある地質や地形が見られる24のジオサイトがあります。けんか祭りを見に来られた際には、ぜひそちらもご覧いただければと思います。糸魚川の特産品としては、ジオパークにも関わりのあるヒスイ製品があります。アクセサリーや勾玉(まがたま)のストラップなどがあり、お土産としては比較的高価かもしれませんが探せば手ごろな値段のものもありますので、糸魚川に来た記念にお求めいただくのもいいかと思います。ご当地グルメでは地酒やベニズワイガニやアンコウなど日本海の海の幸などが豊富です。

野本:糸魚川は文化の町で、糸魚川けんか祭りに奉納される舞楽を含めて国の無形民俗文化財が4つもあります。ひとつの自治体でここまで国の重要無形民俗文化財があるというのは全国でもほとんど例がないと思います。多くの方に歴史と文化が感じられる糸魚川にお越しいただきたいと思います。また、2基の神輿は昨年、平成の大修理ということで100年ぶりに塗りや豪華な飾り金具等の全体修理を行いました。ぜひ新しくなった神輿を見に来てください。