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樺八幡神社祭礼のひとつの行事に鉾出しが有り、約500年以上続く伝統があるという祭りです。毎年9月に地元の若者が荒々しく青竹を打ち鳴らし、社殿を回る勇壮な神事です。言い伝えによると、村人達が団結していることを神に報告し、その長である村長を奉納するとともに、村長の勇気を試すという意味があるそうです。


シシゾウ:鉾出神事はいつごろ始まったのですか?
豊田:鉾出神事が行われる樺八幡神社は平安時代にまとめられた古代法典『延喜式(えんぎしき)』に名前が載っていることから、創建から1100年以上が経っていると思われます。樺八幡神社秋季大祭の宵宮行事として行なわれるこの神事は、樺八幡神社で行われる祭礼の中で最も大切な神事です。鉾出神事については文献が何も残っていないのですが、言い伝えによると約500年以上前から行われている祭りです。私が以前に古老から聞いた話によると、応神(おうじん)天皇の母である神功(じんぐう)皇后の三韓征伐(さんかんせいばつ)や、秀吉が現在の韓国に派兵した戦いの勝利を記念し、戦いの模様を再現したものではないかということです。鉾出神事の鉾とはいわゆる槍のことです。神事に参加する地元の青年たちは、約4mの長さの青竹を鉾に見立てて神事を務めます。

シシゾウ:鉾出神事のみどころはどこですか?
豊田:この神事は日本の祭りの中でもかなり珍しいものではないかと思います。神主さんに鉾出神事に似た祭りが全国にないかどうか調べていただいているのですが今のところみつかっていません。他では見られないというところに興味を持っていただければ幸いです。
シシゾウ:神事ではどのようなことが行われるのですか?

豊田:神事が始まるのは夜の9時頃です。青竹の鉾を持った青年たち20数名が東河原集落生活改善センターに集合します。青年たちは合戦の英雄になった心持ちで、鉾を打ち合って気勢を上げます。といっても打ち合わせるのは鉾と鉾ではなく、私たちがナカジン(中心)と呼んでいる、長さ3mほどの丸い木を縄で十字に縛ったものです。鉾に見立てた青竹の一方の端は細く割ってササラ状になっています。このササラになった側を、青年たちはナカジンに打ちつけて音を鳴らします。これは団結の儀式という意味合いで行われます。この動作を適当な間合いで繰り返し行い、樺八幡神社を目指します。
シシゾウ:どういうメンバーで行列するのですか?

豊田 鉾を持った青年たちの前には集落の古老の叩く先祓いの太鼓、鉾、この神事で重要な役割を果たす村長(むらおさ)がつきます。さらに、神社の宮役と見物の人たちがその後に続きます。村長と宮役の役員は紋付の羽織袴姿で、村長は傘に神社などの紋が入った布をすっぽりかぶせた傘鉾を差し回しながら進みます。道々、青年たちは「遠いぞ、遠いぞ、来年まで遠いぞ」「鉾出せ、鉾出せ、来年まで遠いぞ」と掛け声をかけながら進み、ところどころでナカジンを打ち鳴らして気勢を上げます。そのように進んでいくので、スタート地点から神社まで500mもありませんが、到着するまでに小1時間はかかります。

シシゾウ:神社に着くとどうするのですか?

豊田:青年たちは神社の境内に着くと、本殿と拝殿の周囲を回りながら、今度はナカジンではなく地面に青竹を打ち付けます。そうやって音を鳴らしながら7周半します。4mの青竹はずっと持っているとそれだけでかなり重いうえに、鳴らしながら進むのですから、体力を相当使います。私も若いときに経験しましたが、このときは皆、無我夢中です。また、夜に行われるにも関わらずこの神事で明りとして用意されるのは提灯が数基ほどで、境内はほぼ闇に包まれています。そのため、このとき見物の人たちに分かるのは暗闇にうごめく青年たちと竹が地面を打つ音くらいです。
シシゾウ:神事のハイライトはどこですか?

約30分かけて本殿と拝殿の周囲を回り終えると、青年たちは拝殿前に集合します。ここからがこの神事で一番重要なところです。若者たちは拝殿の入口に鉾の先を差し入れ、勇ましく打ち付けながら「ワッショイワッショイ」と気勢を上げて左右に動き回ります。そこに傘鉾を持った村長が登場し、青年たちの鉾をかき分けて拝殿の中に入ろうとします。しかし鉾に阻まれて入ることはできません。進入を試みては戻るというこの所作を何度か繰り返し、ついには勇壮に突き進んで拝殿の中に無事おさまります。これは集落の一致団結と平穏無事を神社に奉納するという意味で行われるもので、この祭りで一番大切なところです。その後、青年たちは拝殿前で提灯を囲み、この集落に古くから伝わる「ヤンシキ」「チョイヤサ」「オイワケ」という3曲の踊りを奉納し、皆で手を打って神事を終えます。鉾出神事の翌日に行われる本祭りには八角形の神輿が境内を練ります。

シシゾウ:福井市東河原町で豊田さんのおすすめの観光スポットや特産物を教えてください。
豊田:東河原町は福井市中心部から車で40分ほど離れたところにある山里です。これといった観光地も特産物もありませんが豊かな自然が残っています。樺八幡神社のそばを流れる足羽川(あすわがわ)にはアユが棲み、シーズンにはアユ釣りの人が訪れます。神事の舞台となる樺八幡神社の境内には杉の大木がそびえ、鳥居から境内までの約200mの参道の両側にも杉が林立し、歴史のある古社に趣を添えています。

豊田:過疎の地域はどこも同じだと思いますが、この集落も働き場が近くにないため福井市街に移り住まれる若い方が少なくありません。それでも鉾出神事をはじめ地域の祭りごとがあるときには、必ず地元に帰ってきて参加してくれるので喜ばしいことだと思っています。交通の便があまりよくないうえ、夜遅くに行われるので遠方からいらっしゃるのは大変だと思いますが、他所では見られない珍しい神事に興味を持ってお越しいただければ嬉しく思います。